■朝日新聞掲載
掲載紙面:2015年10月26日大阪版朝刊
九州をのぞく西日本全域(近畿、四国、中国、北陸)で230万部程度発行
弁護士保険とは
以下、朝日新聞デジタル版の引用となります。
弁護士費用、保険で備え 販売件数5年で3倍
「弁護士保険」の契約が急増している。交通事故や傷害事件で被害者になったとき、加害者側との窓口になってくれる弁護士の費用が補償される。万が一トラブルに巻き込まれても、高額になりがちな費用を急に用立てずに済むメリットが支持されているようだ。一方で、依頼を受けた弁護士が損害保険会社に高額な費用を請求するトラブルも起き、日本弁護士連合会は実態把握に乗り出した。
弁護士保険は複数の損保会社が日弁連と協力し、2000年度から販売。交通事故、火災、傷害保険の特約(オプション)で付く場合が多い。被害にあった契約者は損保会社に連絡し、日弁連を通じて各地の弁護士会から弁護士を紹介してもらうのが通例だ。特定の弁護士に直接依頼した場合も適用対象となる。
こんなケースがある。
広島県内の男子大学生は今年3月の深夜、コンビニで買い物をした帰り道に車にはねられ、頭を打って後遺障害を負った。特約の弁護士保険で紹介された弁護士が加害者側と交渉し、治療費や慰謝料など約3千万円を受け取る示談が成立した。
示談では通常、弁護士費用は裁判と違って相手側から支払われず、被害者が負担する。このケースでは示談金の1割の弁護士費用約300万円が弁護士保険によって賄われ、契約者は自腹を切らずに済んだ。
日弁連によると、日弁連と協定を結ぶ損保会社、共済組合など計13団体の販売件数は13年度に約2090万件。過去5年で約3倍に急増し、今後も増加が見込まれるという。「市民の権利意識の高まりが一因」と日弁連の担当者はみる。
■離婚・いじめ対応も
需要が高まる中、単体の弁護士保険も登場した。
プリベント少額短期保険(東京)が13年から販売する弁護士保険「Mikata」。月額保険料は2980円。保険適用の対象は離婚や相続、不当解雇、いじめ問題など、特約型よりも幅広いのが特徴だ。
都内の飲食店員の女性(43)は2月、帰宅中の六本木の路上で、けんかしていた外国人が投げたガラスのコップが飛んできてほおを切り、救急車で運ばれ全治2カ月の大けがをした。
数日後、傷害容疑で逮捕された外国人側の弁護人から30万円で示談に応じるよう求められ、同社の弁護士保険を利用。女性についた弁護士が交渉すると示談金は300万円に跳ね上がった。女性は「相手の弁護士から、いきなり電話で法律用語を使われて不安だった。保険がなければ泣き寝入りでした」と話す。
同社は、加入を示す「弁護士保険証」やステッカーを契約者に配布。「保険証を職場で卓上に置くと上司のセクハラがやんだ」「家の玄関にステッカーを貼ると訪問販売が減った」といった声も寄せられているという。契約者は一人暮らしの女性から通学中の子どもがいる母親まで幅広い。
■相談料・報酬、高額請求の例
依頼を受けた弁護士は法律相談料や着手金、報酬などを各損保会社に請求する。報酬は示談金が3千万円までなら1~2割が相場。契約者の負担にならないのをいいことに弁護士が高額を要求し、損保側が支払いを拒否してトラブルになるケースも出ている。
複数の損保会社によれば、トラブルの大半は契約者が直接依頼した弁護士の場合。時間制の法律相談を実際より長時間やったとして請求する例や、弁護士が契約者と申し合わせて報酬額を水増し請求した疑いのある例もあるという。損保各社は報酬額の上限を設定するなど対策に躍起だ。
日弁連は実態把握のため損保会社と情報交換を進める。対策チームが弁護士の紹介制度を再点検し、仲裁機関の設置も検討している。吉岡毅・日弁連事務次長は「賠償を求める権利があるのに、費用面で泣き寝入りしていた人がサポートされる点で弁護士保険の意義は大きい。安心して利用できるよう一層の信頼性向上をめざす」としている。(村上英樹)
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